歴史物語〜十字軍とアルカイダその3〜

   こんにちは。暑い日が続きますね。おかげで、何年ぶりかに熱中症になりましたが、ソルティライチのおかげで元気になりました。

   さて、前回の記事では、十字軍の経済的背景について御紹介しました。

   前回の記事を読んでいただければ、十字軍遠征が宗教戦争などではなく、領土目的の侵略戦争であり、イスラム世界の人々がヨーロッパ諸国に恨みを抱く始まりになったという事が、御理解いただけると思います。

   ですが、これは少しおかしな話ですよね。

   十字軍遠征が終わったのは13世紀末。今から700年以上前です。そんな大昔の事を、いまだに恨み続けている。考えにくい話です。でも、未だにイスラム圏の人々は十字軍と聞くと悪い印象を持っている。何故か。それは、十字軍遠征がヨーロッパによる侵略の、始まりに過ぎないからです。

 よく教科書には「十字軍遠征は失敗であった。」と書いてあります。しかし、本当にそうでしょうか。たしかに、聖地イェルサレム奪回は出来ませんでした。つまり、領土の拡大には失敗したのです。しかし、地中海の制海権奪回には成功しました。宗教的目的は果たせませんでしたが、地中海支配という経済的目的は達成したのです。

 十字軍遠征以降、西ヨーロッパの人々はユダヤ商人を仲介役として、イスラム圏と貿易を始めます。つまりは、西ヨーロッパとイスラム諸国とアジアが、貿易関係で結ばれたわけです。これがヨーロッパの商工業を大いに活発化させました。

 ただし、この時点での力関係はイスラム圏の方が上です。当然ですよね。イスラム諸国を通じてアジアと貿易をしているわけですから、彼らが再びアジア貿易を独占したら、西ヨーロッパは大きな経済的打撃を受ける。故に、イスラム諸国に逆らう事は出来ない。しかも、11世紀になってようやく商工業が活発化し始めた西ヨーロッパに対し、イスラム諸国は8世紀には中国などアジアとの貿易を始めています。経済力はイスラム諸国の方が遥かに上なわけです。結果、西ヨーロッパの人々はイスラム諸国と決して対等とは言えない貿易関係を結ぶことになりました。この事は、西ヨーロッパの商人達の間に、イスラム商人に対する恨みを抱かせる結果となります。

 この様に十字軍遠征は、イスラム圏の人々には侵略された恨みを、西ヨーロッパの人々には不利な貿易関係を強いられた恨みを抱かせ、双方に禍根を残す結果となりました。そしてそれが、大航海時代につながり、現在まで続く、イスラム世界の反ヨーロッパ感情の原点となったわけです。

 このように、十字軍遠征は現在のイスラム過激派の原点ともいえる出来事であり、是非、学校の授業では、歴史を現代につながっているという視点で教えてほしいのです。

 今回で、イスラム世界に関する歴史物語シリーズはいったん区切りをつけようと思っています。いかがでしたでしょうか。高校世界史の知識があれば、現代の国際情勢も理解しやすくなる事を、実感していただければ幸いです。

 もし、歴史物語のリクエストがありましたら、コメント欄に残していただければ、ブログ執筆のモチベーションになりますので、よろしくお願いします。

歴史物語~十字軍とアルカイダその2~

 こんにちは。

 前回の記事では、十字軍が宗教戦争などではなく、領土拡大を目的とした侵略戦争である事を御説明しました。

 

 今回は、十字軍を始めたヨーロッパの人々が、何処の土地を狙っていたのか。そしてそれが、イスラム世界との対立を深めていく様を見ていきましょう。

 

 前回の記事で、10世紀から11世紀にかけ、農業が活発化事を御紹介しました。これを、中世農業革命と言います。

 農業が活発化した結果、多くの余剰品が発生した西ヨーロッパの人々は、それを販売

することで商業活動も活発化します。ヨーロッパ内部で商業が活発化すると、

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歴史物語~十字軍とアルカイダ~

 以前、このブログで書いた「歴史物語シリーズ」を読んでいただいた方から、「歴史の面白さや学ぶ事の重要性がわかりました!」との感想をいただきました。そう言っていただけると嬉しい限りです。ありがとうございます。

 以前は、16世紀の大航海時代イスラム過激派を生む要因となった、という観点で記事を書きましたが、それ以前のイスラム世界とヨーロッパ世界について知りたいという声をいただきました。そこで、今回は大航海時代よりさらに遡り、十字軍遠征について書きたいと思います。

 本来なら、十字軍遠征→大航海時代産業革命という順番で書くべきでしたが、ついつい、大航海時代の方が一般的にはメジャーかなと思い、大航海時代から書いてしまいまして・・・

 よければ、この十字軍とアルカイダシリーズの終了後、以前の歴史物語も読んでみて下さいm(-_-)m

 

 

「十字軍遠征がイスラム国やアルカイダなど過激派の種を蒔き、イギリスやアメリカがそれを育てた。」

 こんな文章が目の前に現れたら、普通の人は信じないでしょう。当然です。十字軍遠征が行われたのは11世紀から13世紀。アルカイダが結成されたのは20世紀。時代が全く違います。しかし、この文章は間違っていません。実は、十字軍遠征がイスラム世界に与えた影響は、現在まで続いていると言っても過言ではないのです。

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世界史を学ぶ人へお勧めの本 その7〜CIAと戦後史〜

こんにちは。

突然ですが、映画やドラマと現実を混同する人は、まずいませんよね。例えば、スターウォーズをノンフィクションだと思う人はいないでしょう。
映画やドラマはあくまで虚構であると、普通の人は理解しています。しかし、ある程度の印象操作という面では、映画やドラマの効果はかなり大きいものがあります。

テレビを通じたマスコミの世論コントロールについては、昨今、若者を中心に多くの人がその実態に気づき、批判の声が日に日に高まっています。

歴史を学ぶ者からすれば、マスコミが特定の国家や組織の意思に基づいて世論コントロールをしている事など、常識です。しかし、そう知っていても、気づかぬうちに洗脳されている場合もあります。

CIA

この言葉を聞いて、皆さんはどんなイメージを抱きますか?

世界一のスパイ組織?
アメリカはCIAを通じて世界を支配している?

おそらく、こういったイメージを抱いている方の多くは、ミッションインポッシブル等のスパイが活躍する映画を観られたのではと思います。(ちなみに私は、「それ行けスマート」が大好きでした(笑))

では、実際のCIAはどの様な組織なのでしょう?もしかしたら、この本を読むと、それまでのイメージが完全に壊れてしまうかもしれません・・・

CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)

CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)

CIA秘録〈下〉-その誕生から今日まで (文春文庫)

CIA秘録〈下〉-その誕生から今日まで (文春文庫)


タイトルの通り、CIAが設立されてから現在に至るまでの歴史が描かれています。また、CIAの活動を通じて、戦後の各国の歴史を詳細に学ぶ事が出来る点もお勧めです。ただ、しつこいのうですが、一般的なCIAのイメージは崩れると思います(笑)
おそらく読み終わった後は、CIAってこんなに駄目な組織だったの!?と思うはずです。

戦後史の理解を深めたい人にはとてもお勧めなのですが、映画のイメージを壊したくない人は読まない方が良いかもしれません。

世界史を学ぶ人へお勧めの本 その6〜健康とヒトラーと多角的視点〜

こんにちは。

これは世界史だけに限った話ではありませんが、やはり物事は多角的な視点で捉える事が重要ですね。仕事にせよ人間関係にせよ、それまでとは違った視点で見ると、新たな展開が生まれると思います。

今回御紹介するのは、そんな多角的視点の重要性を教えてくれる一冊です。

ナチス
ヒトラー

これらの言葉は日本のみならず、世界各国で一種の禁句にされていますね。
数年前には日本でも、チャップリンヒトラーを風刺した映画の台詞を使ったCMが、不謹慎だと批判を受けました。意味がわかりません。

ヒトラーを批判する台詞がヒトラーを礼賛する事になるから不謹慎だ!」

と批判されたのです。おそらく批判した人は、

ヒトラーと名がつく物は全て駄目だ!」
ヒトラーは完全悪だ!」

という単純明快な考えの持ち主なのでしょう。ある意味、羨ましいですね。
この本は、そういった表面的な知識のみで物事を判断する危険性も教えてくれます。

健康帝国ナチス (草思社文庫)

健康帝国ナチス (草思社文庫)

健康帝国ナチス

健康帝国ナチス



今では、タバコと肺癌が関係している事は常識ですが、それを初めて指摘したのがヒトラー政権でした。

ヒトラーは国民に喫煙が健康に与える危険性を啓蒙し、国を挙げての禁煙運動に取り組みます。また、ガンの早期発見の重要性にいち早く気づき、国民に検査を奨励し、特に子宮ガンなど女性特有のガン患者の場合は、ガンと診断された場合、無料で入院させ治療を受けさせました。

この様に、ヒトラー政権は女性に対し非常に優しく、それも国民から支持された理由なのです。ちなみに、教科書は何故か、これらの事実を記載せず、人体実験やユダヤ人迫害など、ヒトラー政権の負の側面ばかり書いています。非常に偏っているのです。

本書の良い点の一つに、そうした教科書の様な偏りが無いところが挙げられます。健康政策を実施する一方で、その為にどの様な人体実験が行われたかを、客観的に事実のみを記載しているのです。 つまり、この本を読んでナチスを礼賛せよ等という意思は微塵も無く、

「この本に書かれた事実を基に、ナチス政権について考えて下さい」

という意図に溢れています。

また、訳が非常に良いです。単なる翻訳ではなく、当時の情勢等もふまえられた訳なので、とても読みやすいのです。翻訳者の方の教養が溢れ出る素晴らしい訳でした。

歴史を学ぶというよりも、教養を深める為にもお勧めしたい一冊です。

世界史を学ぶ人へお勧めの本 その5〜経済を制する者がやはり強い〜

こんにちは。

突然ですが、経済にせよ文化にせよ、グローバル化という言葉が使われ始めて久しいですね。
例えば、最近の例ではトランプ大統領の就任やイギリスのEU離脱決定で、日本でも株価が大きく下落しました。

この様なグローバル経済はいつ頃成立したのでしょうか。
高校の世界史の授業では、中世ヨーロッパでハンザ同盟という単語を習ったと思います。
13世紀頃に成立したこのハンザ同盟が、実は、ヨーロッパにおける最初の国際商業ネットワークを構築したのです。
しかし、ハンザ同盟は17世紀に解散し、残念ながら、近代までそのネットワークを持続させる事は出来ませんでした。

では、17世紀以降、ヨーロッパで国際商業ネットワークは構築されなかったのか?答えは否です。
ある程度世界史を学んだ事がある人は、「ロスチャイルド家」という名前を聞いた事があると思います。
実は、このロスチャイルド家こそが、現在のEUの原型とも言える、国境を越えた国際商業ネットワークを構築した一族なのです。

前置きが長くなりましたが、今回、御紹介したいのは、そのロスチャイルド家について書かれたこの一冊です。


残念ながら、高校の授業ではロスチャイルド家について触れる事はほぼありません。そのため、多くの日本人はロスチャイルド家についての知識がほとんど無いのが現状ではないでしょうか。
この本では、そのロスチャイルド家の成立から、彼らが如何に全ヨーロッパに跨る商業ネットワークを構築したのか。そして、彼らがその経済力を駆使し、如何に各国の政治を操っていたかが、非常にわかりやすく書いてあります。

よく、ユダヤ人が世界を操っているという陰謀論がありますが、その真偽の程はさておき、この本を読めば、少なくとも18世紀から19世紀のヨーロッパが、ユダヤ財閥ロスチャイルド家の影響下にあったと言える事が御理解いただけると思います。

ある程度世界史を学んだ人にも、これから世界史を学びたい人にもお勧めの一冊です。

世界史を学ぶ人へお勧めの本 その4〜嘘つきは毛沢東の始まり〜

こんにちは。
今回も、中国史に関する本をお勧めしますが、かなり癖がある一冊です(^^;;

毛沢東 日本軍と共謀した男 (新潮新書)

毛沢東 日本軍と共謀した男 (新潮新書)


タイトルからもわかりますが、中華人民共和国の建国者、毛沢東について書かれた本です。
世界史を学んだ人なら、中国共産党が日本軍と戦い、これを撃退して中華人民共和国を建国したなどという中国共産党の主張が、嘘八百だという事は御存知だと思います。

この本もその観点から書かれており、正直、目新しい観点はあまりありません。

しかし、流石は中国研究の第一人者。様々な文献から中国共産党の嘘を暴き、さらに自身の幼少期の体験から、如何に中国共産党中国国民党の軍隊(その規律の無さから軍隊と呼べるかという疑問は残りますが)が庶民から搾取し、虐殺していたかを、詳細に描いています。

やや、筆者の思想(蔣介石礼賛主義)が強過ぎて辟易する部分もありますが、当時の状況を知りつつ、中国共産党の嘘を見破る資料(史料とするには主観的過ぎます)としてはお勧めの一冊です。